気持ちは歩きたいけど、運動得意ぢゃないんだよな~、11キロって辛そうだし……と実はちょっと後ろ向きに「塩の道まつり」に参加しました(すみません)。
36回を迎える人気イベントは、毎年5月3日・小谷村、4日・白馬村、5日・大町市の3日間行われます。それぞれ特徴がある道ですが、大町市は比較的アップダウンが少なく、湖畔を歩くのがポイントです(別コースもあり)。
ゴールデンウィーク後半の5日子供の日、心配された天気もなんのその。雨は止み日ざしも出ていました。ひんやりとした朝9時半、白馬村との境・青木湖畔の西国三十三番観音からスタートです。
今日の歴史案内人である大町市文化財審議委員長の荒井和比古先生が、「観音は“道しるべ”でした。雪の中、遭難しないようにと神仏に頼ったのでしょう。昔は生活と信仰が密着していたんですね」と道中、神仏が多い訳を教えてくれました。
旅装束をまとった町奉行一行と共に1000人で歩き始めます。ここは標高1000m付近で、「塩の道まつり」の会場道路の中で一番高い場所なんだそうです。道理で少し寒いくらい。出発式の後、オカリナの優しい音色が送り出してくれました。
青木湖キャンプ場付近で、二輪草や山延胡索(ヤマエンゴサク)がちらほら咲いていました。左に見える青木湖の碧さと、芽吹いたばかりの若葉が目に優しく映ります。青木湖は国内屈指の透明度で60代女性グループが「うわぁ~、湖面がきれいね~」と写真を撮っていたのも頷けます。
小一時間歩くと中綱湖に入り、中腹の「中綱水(すい)神社」で最初の休憩。
地域の方々の好意でふるまいを頂きます。
黄な粉餅や胡麻餅、野沢菜のお漬物……。
甘い物としょっぱい物のローテーションがたまりません!
甘酒も戴きました。う~ん、ちょっとしか歩いていないのに「旅はハラモチが肝心」と実感してしまいました。
青木湖と中綱湖を過ぎ、国道をしばらく行きます。農具川沿いに国道148号線と大糸線が走っているのですが、ここ一帯は“生きた化石”としてレッドリストに載る「川真珠貝(カワシンジュガイ)」の生息地。
一緒に歩いた地元の方が「昔はいっぱいいたのにねぇ」と、民家沿いの側溝を覗き込みながら教えてくれました。
国道から離れて道なりに行くと、開けた水田と菜の花畑が見えてきます。道沿いに咲く濃いピンク色の花桃も絵になります。ここを歩く旅姿の町奉行一行は、絶好の被写体です!
多くの撮影者に交じって私もカメラを構えました。大町レディース扮する侍女を待ち伏せたり、畦道を走ったりと、ここが一番汗だくになった場所でもありました。
菜の花畑の向こうを走る特急「あずさ」を見送り、また進みます。鬱蒼としていて風格ある「海ノ口上諏訪神社」で、休憩と歴史解説。木崎湖を昔は「海ノ口池」と呼ばれていたそうです。神社は弥生時代の貴重な銅戈(どうか・武器)や武田信玄の安堵状などを所蔵されており、石垣でヒカリゴケが見られることもあるそうです。
ここから先は一列で山道を歩きます。汗をうっすらかきながら、「塩の道ちょうじや」で体験した歩荷のことを思い出していました。「この道は歩荷が1日285人歩いたという記録があります。荷物の4割が塩だったようで、いかに海のない信州にとって大事な生命線であったか」という、荒井先生の解説もありました。長い歴史の中で多くの人が汗をかきかき踏みしめた道。そう考えると感慨もひとしおです。
山道を下り木崎湖の湖畔沿いを歩きます。ゴールも近いという解放感からか、近くを歩く方とも話が弾みます。
「これが漉油(コシアブラ)だよ。天麩羅にすると美味しいよ」と地元の方、「神奈川から娘と来ました。コスチュームはお手製です」と旅の僧侶姿の参加者の親子。
汗を冷やす心地よい風と人々の笑顔に、私の気持ちも晴れやかです。
のんびり歩いて13時前にゴールの森城址に到着。着いてみればあっという間で、お喋りしながらの11キロはそんなに辛くなかったかも。
お待ちかねのお昼は、城址にある仁科神社でのふるまいです。豚汁に似た歩荷汁や、山菜の天麩羅、お神酒などを頂きました。源流美麻太鼓の皆さんの勇壮な太鼓の音色を聞きながら、ゆっくり疲れを癒やしました。
いにしえの名残を辿りながら歩いた現代版の「塩の道」の祭り。天気に恵まれ、歴史の話もたくさん聞けて、美味しい物をたくさん食べて!
初めての「塩の道」体験は大成功でした。
普段は車で走り抜けるだけの国道でしたが、一度歩いてみると印象がガラリと変わります。花を見つけて土を踏みしめ、石仏のほほえみに癒やされ、山道の空気を感じることができて、また一つ「大町イイトコ」を知りました。
長い千国街道のほんの一部を歩いた訳ですが、これからも道の持つ記憶を辿って、市内の(市外も)街道を歩きたいと思います。翌日からしばらく続いた筋肉痛に悩まされながら、そう誓いました。
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<塩の道に関するリンク>
<参考文献>
「塩の道・千国街道」田中欣一編(銀河書房)
「古道 塩の道」府川公広(ほおずき書籍)