私は大町に来る前からジビエに興味がありました。
マタギ小説の最高傑作『黄色い牙』(志茂田景樹)や、
実録猟師本『ぼくは猟師になった』(千松信也)や、
解体について詳しく知れる『牛を屠(ほふ)る』(佐川光晴)などを
読んできたからだと思います。
そして食に対する興味から、食材になる過程も知っておくべきと
考えています(ちょっとまじめになっちゃった)。
つまり食肉を加工する場面を見て
「動物が可哀想じゃないですかぁ」とか「気持ち悪~い」的なことは
私は口が裂けても言えません。
今回はそんな話を含みますので、ご理解いただければ嬉しいです。
さて興味がありつつも、ジビエに関して
「牛や鳥、豚のように普段食べる肉以外の肉を食べること」くらいの
半端な知識しか、隊員にはありません。
早速、ジビエに取り組んでいらっしゃる方にお会いしてきました。
ジビエに取り組んでいるのは公共の団体ではなく、
大町・美麻地区にある有志の美麻ジビエ振興会の皆さんです。
「2008年頃からこの地区でもイノシシやニホンジカの被害が急増しました。
(県全体だとシカだけで4億円を超える被害額だとか!)
駆除するだけでなくそれを活かす方法として、
3年前の2012年に加工施設を設け販売を始めました」と、
経緯を話して下さったのは、会長の種山博茂さん。
なるほど大町にも電気柵がたくさんありますが、
それだけ獣害が多いということですね。
そもそもジビエとはフランス語で「野生の鳥獣肉」の意味があって、
食文化の違いでしょうか、ヨーロッパでは広く知られており高級食材なんだとか
(以前取り上げたライチョウもジビエ料理に使われてます)。
日本では主にシカやイノシシが食べられており、
鹿肉は脂肪が少なくたんぱく質が多く、
鉄分やカルシウムも豊富ということで、
ヘルシー食材として注目されています。
「最近は需要も少しずつ増えており、
安定供給できるようにするのが課題です」とのこと。
自然相手ですので、季節や環境によって捕獲できる数にばらつきがあるのは、想像に難くないですね。
それに捕獲のされ方によって販売できない個体があるんだとか。
「鉄砲で頭や腹を撃たれたシカは、血が全身に回りまずい肉になる。一方罠で捕獲したものは、あまり傷付けずに血抜きができるので商品にできるんです」。
なるほどすぐに処理することで品質が保たれるという訳なのですね。
「本音はね、害獣が捕れなくなるのが願いです。
肉を売りたいというよりは、田畑を守るために始めたことですから」という種山会長の言葉が印象的でした。
お話を伺った後、美麻ジビエ工房を見せて頂きました。
解体作業を……という訳にはいかなかったので、
展示されていた解体の写真を解説して頂きました。
「命をいただく」尊さを感じずにいられない、そんな空間でした。
市の倉庫の一部を改築した、と聞いていたので
どんな施設だろうと思っていましたが、
とても綺麗で清潔感ある作業所でしたよ。
ここでシカ1頭を解体して包装するまでに、
熟練の職人4人がかりで3時間かかるそうです。
販売できる肉は体重の1/3程度。
少ない印象でしたが、解体処理には厳しい制約が多いので
摂取量が少ないそうです。
また、食中毒を避けるために長野県では独自に
「信州ジビエ衛生管理ガイドライン」などを設けて、安全を確保しています。
最近ジビエの食中毒が話題になりましたが、
絶対に獣肉は生で食べないでください。
豚や牛の生食は禁止されましたが、それと同じような理由で、
まれに「E型肝炎ウイルス」を持っているからです。
よく火を通せば問題ありません。
さて、ジビエの勉強をしたことろで、
実際味わってみないとね。
ということで市内にある「カイザー」さんに食べに行きました。
折角なので1日6食限定の黒部ダムカレーをチョイス(ただし一人で食べきれる量ではありませんので、注意です)。
ボリューム満点のご飯とカレー、そしてガルベ(遊覧船)に見立てた鹿肉100%の鹿メンチカツ……。
早速戴きましたが普通に、というか普通以上に美味しいメンチカツです! 言われなければ「なんか食感が変わってる美味しいお肉」という感じで鹿肉だってことに気付かないかも知れません。
私、牛肉より鹿肉の方が好きかも…?!
(個人の感想です) 黒カレーにもピッタリでした。
「昔は処理技術や輸送に問題があったから、昔の人は臭いイメージがあるのだろう」
とオーナーさんが教えてくれました。
なるほど「臭い・まずい」というのは、ちゃんと処理されていない肉を食べた人の感想なのですね。
だって、そんなこと全然なかったもの。
「観光客の方が抵抗なくジビエを注文していきますよ。
市内の方も一度食べればリピーターになりますが」
というのも納得。
ちなみにジビエの人気メニューは「鹿ステーキ定食」や「鹿カツ定食」だそうです。
まだまだ発展途上ではありますが、
軌道に乗ってきた大町のジビエ。
ジビエハンターの後継者が少ないと聞きました。
興味があった私はいつか狩猟免許を取ってみたいと思っています。
鉄砲は怖いけど罠なら女性でも平気かな?!
すでに女性の方もいらっしゃるし……。と野望を抱き始めました。
「協力隊としてこれで、道が開けてきた?!」と、
取材を通して自分のこれからが見えてきた気がする回でした。
<お世話になった取材先>
美麻ジビエ振興会
電話/0261・23・1334(手打そば美郷)
<市内でジビエが食べられるお店> ※順不同
●農園カフェ ラビット
(鹿肉のカレー、パスタなど)
http://nouencafe-rabbit.com/gibier.html
●ぽかぽかランド美麻
(鹿肉のコロッケ定食、ハンバーガー)
http://miasa-pokapokaland.com/
●カイザー
(鹿肉のステーキ、メンチカツなど)
http://kaiser-omachi.jimdo.com/
●酒楽亭たきょう
(鹿肉の煮込みなど)
http://www.kanko-omachi.gr.jp/eating/2010/02/post-50.php
<市内でジビエが買える店>
小林鶏肉店
住所/大町九日町2460 電話/0261・22・0476
<参考にしたサイト>
「信州の山の恵みを味わおう 信州ジビエ」長野県
信州ジビエ研究会