※この記事は2015年5月に取材したものです。

 現在、おざんざは販売されていません。

おざんざ ~“幻のうどん”求めて~


初耳の食べ物、その名も「おざんざ」

大町にしかない  うどんですって?

蕎麦立国の長野だけど(写真はイメージ)
蕎麦立国の長野だけど(※写真はイメージ)

 

人生に永遠のテーマがあるように、食にも永遠のテーマがあります。ズバリ・あなたは「そば派?うどん派?」さぁ、どっち……? 

 

よく聞くのは、関東人は蕎麦派、関西人はうどん派という話。私は関東生まれ関東育ちなので、基本蕎麦です。外食に行くとき蕎麦屋さんには行きますが、あんまり好んでうどんを食べることはないかも……。奈良出身の友達には「それは美味しいうどん屋が東京にないだけや」と言っていたっけ。

無口なやつだぜ
無口なやつだぜ

さて、長野は一人当たりの蕎麦屋件数が全国一位! 

と自他共認める「蕎麦の国」で、大町市内にも美味しい蕎麦屋が五万とあります。

五万は言い過ぎだとしても、27軒の蕎麦屋さんがあります。

圧倒的に蕎麦派の市民かと思いきや、うどん屋さんは11軒(※iタウンページ調べ)と健闘しています。

大町は関西方面から来た方も多いですものね。

 

そんな折「おざんざ」という、珍しいうどんの話を聞きました。

なんでも大町にしかない麺なんだとか。食いしん坊の私としては、気になってしょうがない!

早速リサーチを始めました。

大町の土産物店やスーパーで手に入るけど

地元での認知度はいかに?

スーパーなどで1束(200g)350円前後です
スーパーなどで1束(200g)350円前後です

ところで地元での「おざんざ」の知名度ってどれくらいだろう? 私の周辺の人に聞いてみました。

市役所勤務の東京出身A子さん「着任した頃に温かいのを食べました。美味しいかったです」。同じく市役所勤務の地元出身Tさん「地元では日常的には食べないなぁ。お土産にすることはあるけど」。市役所1階おおまぴょん「…………(美味しいよ!のど越しいいよ!)」。市役所勤務の地元出身Y澤さん「スーパーでも売ってるよね。全然、納豆の味しね~ね(しないんだよね)」え!?納豆?!

 

私の交友関係が狭すぎるのはともかく、謎を呼ぶ「おざんざ」。納豆の味とはどういうことか? 製造元に確認してみることにしました。

 

高級旅館の会長さんはアイディアマン

フロンティア精神で大町に名物を!

旅館「あずみ野河昌」のロビー
旅館「あずみ野 河昌」のロビー

新緑の美しい中、大町温泉郷に向かいました。「おざんざ」を開発した方にお会いできるということで、指定されたのがここ「あずみ野 河昌(かわしょう)」。温泉郷屈指の高級旅館ではありませんか!

 

長野県内に多い「本棟造り」の古民家の宿は、庭園に囲まれた落ち着いた佇まい。ゆったりとした切妻屋根の玄関から入ります。広く高い天井と立派な梁に圧倒されつつ、和風のラウンジに向かいました。お話を伺ったのは旅館の会長・水口裕義さん。「おざんざ」の発案者です。

 

昭和30年代、20代の頃は信濃大町駅前で食堂で腕を振るっていた水口会長。「列車が到着する度に、駅舎が見えないくらい登山客やスキー客が押し寄せてきたものです」と当時の大町の繁栄ぶりを教えてくれました。

その頃、駅周辺で子供が納豆を売っており、よく購入していたそうです。もともと納豆が大好きだった水口会長は、いつか納豆を使った料理を作りたいと考えを温めていました。

 

木崎湖の平公民館近くにある河昌製麺
木崎湖の平公民館近くにある河昌製麺

黒部ダムの好景気に支えられた大町。その後、会長は駅近くの歓楽街「日の出町」に割烹料理店を開きます。夜になれば芸者さんやハイヤーが行き交う大人の社交場に。繁盛したこちらの店でも、納豆を使った料理を出していました。

 

昭和47年、30歳を過ぎたころ大町温泉郷で旅館業を始めます。前年にはアルペンルートが全面開通。「おざんざ」開発の歴史は水口会長の歴史でもあり、大町の発展の歴史にも重なるのでした。

 

 

塩を使わない?! 納豆を洗う?!

うどんの概念を崩して美味しいレシピへ

オートメーション化された麺づくり
オートメーション化された麺づくり

温泉郷の旅館の敷地で、納豆を使った麺の試作を重ねることにしました。「納豆を使った麺」と聞くと、納豆を潰して練りこむ……のような想像が働きますが、会長の考えは一般的なうどんで使う塩は使わず「納豆の糸」を繋ぎにするという、突拍子もないアイディアでした。

 

料理人でもある水口会長は“昭和天皇の料理人が納豆をお出しする際に、納豆のネバネバが不快だと申し訳ないと思い、洗って出した”というエピソードが記憶にあったそうです。それにしてもユニークなうどんです。旅館の宿泊者に食べてもらうと、これが大好評。乾麺にして販売されることになったのが「おざんざ」でした。

「育ててもらった大町に、みんながびっくりするような名物を作りたかった」という会長。40年経った今、すっかり大町の名産品になりましたね。

 

仁科三湖・木崎湖近くの工場を見学

3代目社長の目指す新しい夢

長い状態のまま7時間以上かけて乾燥されていく
長い状態のまま7時間以上かけて乾燥されていく

「おざんざ」の工場と直売所が木崎湖の近くにあると聞いて、そちらもお伺いしました。河昌3代目の社長・水口裕之さんに工場を案内して頂きました。

 

そう大きくはない建物の販売カウンターの奥に梱包の作業スペースがあり、その先に「おざんざ」の工場があります。大きな機械がいくつもあり、2階建ての構造部分に材料が備蓄されていました。

 

原材料は、安定供給できるオーストラリア産の小麦粉、地場産の新鮮な卵、長野市の老舗納豆店の納豆(長野県産や北海道産などの国産大豆使用)、そして北アルプスの清涼な水。「おざんざ」の品質を守るために選ばれた材料です。

 

水口裕之社長(直売所にて)
水口裕之社長(直売所にて)

製造工程は大きく分けて3つ。

1、小麦粉と卵、納豆から抽出した納豆の糸(納豆菌)を混ぜて、生地を作ります。

2、こねて延ばし「おざんざ」の太さに切ります。

3、そして乾燥させる。

 

1日で3200食分を製造するという工程で、一番難しいのが乾燥させることだそうです。一般的なうどんは塩が急激な乾燥を抑えてくれるのですが、こちらは納豆菌。乾燥時間は天候に左右されやすく、太さや長さ、生地の状態など品質管理にとても気を使うそうです。

「大量生産するよりも、高品質で確かなものを売りたいのです」と水口社長。今後の意気込みを聞いてみると、「期間限定の生麺のおざんざの開発を夢見ています」とのこと。一体どんな「おざんざ」になるのか、今からとても楽しみです。

 

現場を見させて頂いて、俄然お味が気になってきました。そんな訳で、市内で食べられる店「わちがい」に行ってきました。

 

隊員初体験! 食べてみた「おざんざ」

つやつやの美しい麺……そのお味は?

「おざんざ」はこの辺りの方言で麺類を指す言葉が由来
「おざんざ」はこの辺りの方言で麺類を指す言葉が由来

信濃大町駅から徒歩10分の「わちがい」は、町家づくりの素敵な古民家。ここで大町の郷土料理が食べられます。(2階にはギャラリーもあり素敵な空間なのですが、それはまた別の機会に紹介しますね)。

 

今回私が頼んだのは冷たい「おざんざご膳」(塩の道小祭りセット1000円)。「おざんざ」と季節の小鉢が2つとおぼろ豆腐がついています。ジャズの流れるお洒落な雰囲気の中で(注文を受けてから茹でるので)しばらく待つと、来ました! 待望の「おざんざ」です!

 

写真をご覧ください。ほんのり黄色で、こんなにツヤツヤしています。つゆに付けて食べてみると……つるつるして歯触りがいい! 言われなければ納豆を使っていると分からない癖の無さ。もちもちしていて歯ごたえがあるのに、太すぎないから食べやすい! 小鉢のしっかりした味とこれがまた合う! 夢中で食べきってしまいました。

 

食塩・着色料・添加物・未使用の麺

愛される名物に想う、私の命題?!

駅前の本通り上仲町商店街にある「わちがい」
駅前の本通り上仲町商店街にある「わちがい」

味はバッチリでしたが、気になるのは栄養面。「おざんざ」には普通のうどんにはない、納豆に由来する栄養素が盛り沢山。大豆イソフラボンをはじめ、骨に関係するビタミンK2、腸に働くムチン※、血栓を溶かすナットウキナーゼ、若返り物質ポリアミンなどが含まれています。塩を使っていないため離乳食や、塩分制限のある高血圧症など人にもおすすめとか。

 

料理のコツを「わちがい」の方にお伺いしたところ、「茹でた後はしっかり洗ってぬめりを取ること」だそうです。茹でているときは納豆の香りがするそうですが、食べるときには香りは分からない。納豆が苦手な方もこれで納豆の栄養素が摂れますね!

 

満腹で幸福感いっぱいになって店を出ました。帰路につきながら、この麺の開発の歴史を改めて思い出していました。名物を作ろうとして開発された唯一無二の麺。それは大町の「町おこし」の先例でもあります。“地域おこし協力隊”として、私もまた「おざんざ」のような愛される何かを作り、形にできるのだろうか? ……そんな難しい命題は、お腹がこなれてから考えることにしました。ともあれ、ごちそうさまでした!

 

ここでいうムチンは動物性由来の粘液物質ではなく、一般的に言われている食品を説明する際の「ネバネバ成分」のことです


<お世話になった取材先>

株式会社 河昌製麺舎

住所/長野県大町市平木崎 9316

電話/0261223200

営業時間/9時~17時(土・日・祝日休) 駐車場/5台

※工場見学不可

おざんざオンラインショップ

http://www.ozanza.com/

 

<「おざんざ」が食べられるお店>

・あずみ野 河昌 http://www.kawasyo.jp/

・わちがい    http://www.wachigai.com/

・ベルヴィル(カフェギャラリー&温泉付貸し別荘) 

         http://blogs.yahoo.co.jp/shikahiko

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